心電図の自動解析について知っておきたいこと

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心電図検査は、心臓の電気活動を記録する重要な医療検査です。

最近では、この心電図の解析に自動化された機能が導入され、医療現場で広く利用されています。今回は、この自動解析機能についての精度や限界について解説します。

目次

心電図の自動解析機能とは?

心電図検査では、一般に日本光電やフクダ電子などのメーカーが提供する機器が広く使用されています。

これらの機器には自動解析機能が組み込まれています。

専門医以外の医療従事者でも利用可能であり、その精度は非常に高いとされています。

ある病院での調査によれば、専門医の診断と自動解析の一致率は99.0%に達するなど、正常な心電図の診断においては信頼性が高いことが示されています。

自動解析機能の有用性と正確性

心電図の自動解析機能はどの程度有用なのか、調べてみました。

こちらは某病院の心電図検査室で記録された連続1124件と循環器専門医6名による自動解析所見と比較検討したデータになります。

Heart&Wellness No.15 臨床MEインフォメーション 最新の心電図自動解析より参照

御覧の通り、自動解析が正常と診断した295例のうち専門医は292例を正常と診断し、一致率は99.0%となっています。

また左室肥大はは91.8%、ST-T異常は99.7%と良好な一致率を示していました。

Heart&Wellness No.15 臨床MEインフォメーション 最新の心電図自動解析より参照

一方で不整脈に関しては、心房細動と上室期外収縮に自動解析の読み落とし(偽陰性)があり、専門医との一致率がやや低い結果となっています。

心電図はスクリーニング検査としての性質を持つがゆえに、偽陰性を減らすようにプログラムされています。

自動解析で読み落とされやすいポイントについて、読影時にあらかじめ意識しておくことで、見落としを防ぐことができると考えられます。

メーカーごとの診断精度の差

心電図メーカーには、GEヘルスケア、フィリップス、バイオテレメトリー、ウェルチ・アレン、モルタラ・インストゥルメント、スペースラブ・ヘルスケア(Spacelabs Healthcare)、スズケン、フクダ電子、日本光電工業…が存在します。

そして自動診断解析のアルゴリズムはメーカー毎に異なります。

An assessment of a diagnostic accuracy for a computerized interpretation of 12-lead electrocardiograms by using the newest version of two representative programs in Japan
Yoshihiko Watanabe, Noboru Okamoto より参照

表は日本でよく使用されるA社とB社の解析結果を比較しています。

心電図の自動解析が正常範囲かつ、医師の診断が正常とされたものはA社、B社ともに87%と低下しています。

そして注意すべきは、生命に危険のあるような、前壁・側壁心筋梗塞の感度で、その感度は85%程度とやや低い結果となっています。

次の表をご覧ください。

こちらは不整脈の自動解析に関してのメーカー毎の比較になります。

An assessment of a diagnostic accuracy for a computerized interpretation of 12-lead electrocardiograms by using the newest version of two representative programs in Japan
Yoshihiko Watanabe, Noboru Okamoto より参照

心室性期外収縮の感度はどちらも良好ですが、心房細動、Ⅱ度房室ブロック、Ⅲ度房室ブロックなど重大な不整脈の診断解析についてはメーカーによって差があるのがお分かりいただけると思います。

自動解析で見落とされた例

急性心筋梗塞の見落とし

心電図で見落とされた例が具体的に載っていましたので紹介いたします。

An assessment of a diagnostic accuracy for a computerized interpretation of 12-lead electrocardiograms by using the newest version of two representative programs in Japan
Yoshihiko Watanabe, Noboru Okamoto より参照

A社では亜急性の下壁梗塞と診断できているのに対して、B社ではST-T変化を伴う左室肥大の記載にとどまっています。

実際にはⅡ、Ⅲ、aVFでST上昇、Ⅰ、aVLでST低下しており、急性心筋梗塞と考えられます。

完全房室ブロックの見落とし

こちらも具体例が紹介されていました。

An assessment of a diagnostic accuracy for a computerized interpretation of 12-lead electrocardiograms by using the newest version of two representative programs in Japan
Yoshihiko Watanabe, Noboru Okamoto より参照

A社では完全房室ブロックと診断されているのに対して、B社では調律不明と記載されています。

これはB社の心電図解析のアルゴリズムが完全房室ブロックに対するパラメータとして、全R-R間隔のばらつきが平均R-R間隔の2%以内、脈拍数<50bpm、QRS波に同期したP波がないと定められていることに由来します。

心電図自動解析の限界

不整脈以外の疾病では補助診断にすぎない

心電図は心臓の電気現象を反映しています。

心電図の情報だけで病名を診断できる場合は限られていることを予め知っておく必要があります。

例:急性心筋梗塞は、心電図変化、激しい胸痛、血清酵素値の上昇のうち二つの条件を満たすことが診断に必要です。

小さな波形の認識とアーチファクトとの識別は困難

自動診断においては、P 波の検出が時に困難で、心房期外収縮、上室頻拍の変行伝導と心室期外収縮の鑑別、心房細動・粗動の診断などにおいて、判読に誤りを認めることがあります。

また、筋電図混入、振戦、体動変化などに影響されやすく、交流障害などによって誤診が生じることもあります。

心電図自動解析の展望

現在の自動解析心電計は、日常臨床に使用する際には、残念ながらまだ医師のチェックが不可欠である段階と考えられます。

特に救急外来での診断においては、自動解析の結果だけに依存せず、医師の経験と臨床判断が不可欠です。

自動解析機能は診断の手助けになりますが、医師の知識と経験がなければ適切な診断や治療戦略を立てることが難しい場合があることをきちんと理解しておく必要があります

まとめ

以上から心電図の自動解析の精度は比較的正しいものの、解釈には注意が必要という話でした。

  • 自動解析が正常範囲であれば正常である可能性が高い
  • メーカーによって精度に差があり、結果を鵜呑みにすると痛い目に合う可能性がある
  • 診断は心電図だけでつけるものではなく、あくまで補助診断であることに注意する
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